円波
恩地孝四郎の「円波」。中国で出会った、池の桟橋で洗濯をする少女の姿を木版画にしている。戦後は丸や四角を思いきって配したような抽象的な作風に変化してゆくが、これが制作された昭和14(1939)年はちょうどその過渡期にあたる。乱暴に、画面下から上へと屈折しながら延びた直線の先にはヴィヴィッドな青と黒、幾重にも重なった白い楕円…… すでに片足と言わず、抽象の沼にズブズブはまり込んでいるようにぼくには映るのだけど、みなさんにはどうだろう。じつはこの作品には元になったスナップ写真が残されていて、それを見るかぎりかなり忠実に再現されているのだが、平凡な風景も彼の目にはこんなふうに抽象化されて見えていたのかと思うととてもふしぎに面白い。