青蛾
かつて新宿に「青蛾」という伝説の喫茶店があったことは聞き知っていたのだが、ぼくが中学生のときに閉店しているので当時のことについては実は何も知らない。その後「青蛾」は東中野に移転しギャラリーとして存続してきたが、いつだったか調べ物で訪れた新宿区歴史博物館で「青蛾」が喫茶を再開するというニュースを偶然知って訪ねるのをとても楽しみにしていた。しかも、日頃からなにかとお世話になっている「かうひい堂」の内田牧さんがコーヒーを担当されるという。建物こそにぎやかな山手通りに面した現代的な空間だが、家具やうつわは当時のものがそのまま使われているのが喫茶店好きにはうれしい。その上さらに、牧さんの淹れてくれるコーヒーを飲みながら好きな本が読めるなんてなんと贅沢なことか。レモン味とバター味の「青蛾」オリジナルクッキーもおいしい。なお、店内は禁煙。PC、携帯の店内での使用は不可なので、行かれる方は好きな本を片手に出かけましょう。
そして、明日10日(水)moiはお休みを頂戴致します。何卒よろしくお願い致します。
鼻血出てるよ
巷では運賃が100万円近くもするような超豪華列車が話題だが、その一方で<ブルートレイン>の愛称で知られた寝台特急が廃止されたまま復活の兆しが見えないのは返す返すも残念なことである。
ぼくが子供のころ、<ブルトレ>(注 ブルートレインの略)に乗ることは夢であり希望であり、またあこがれであった。飛行機ならコンコルド、電車ならブルトレ、伊東に行くならハトヤ。昭和の少年にとってのプレミアムとはそういうものだったのだ。
夢が叶って、ぼくが寝台特急「出雲」号に乗車したのは、たしか小学4年の夏休みのこと。正直、電車の揺れと騒音、「B寝台」の窮屈なベットは快適とは言い難かったが、「いま俺はブルトレに乗ってるんだぜ!」と世界に向かって叫びたくなるような興奮でとてもじゃないが眠っているような心持ちではなく、それもまったく気にならなかった。
深夜になっても眠くならなかったぼくは、寝静まったブルートレインの車内をせっかくなので探検してみることにした。
「ぼく?ちょっと」。しばらくすると、向こうからやってきた車掌さんがぼくを呼び止めた。ま、眩しい! 夢にまで見たブルートレインの車掌さんである。ジュリーが一本足打法でエレキングをやっつけるくらいのカッコよさである。ぼんやり口からヨダレが垂れるようなアホヅラで佇んでいるぼくに、車掌さんは言うのだった。「ぼく? ちょっと。鼻血出てるよ」。そう、ブルトレに乗った興奮で、小学4年のぼくは鼻から血を流したままそれにも気づかず列車内を徘徊していたのだった。そして、車掌さんはおもむろにトイレの扉を開け、ぐるぐるとトイレットペーパーを腕に巻きつけて出てくるとぼくの鼻の穴にトイレットペーパーを詰めてくれた。いまでもきっと、ゴワゴワの固いトイレットペーパーを鼻の穴に詰めさえすれば、ぼくはいつでもあの甘酸っぱい<ブルートレイン>の一夜を鮮やかに思い出すことだろう。
まあ、なにが言いたいのかというと、企業は、裕福なお年寄りや爆買いする外国人の懐ばかり狙ってないで子供が鼻血出すくらいの商品をつくってみろ! そう言いたいのであるよ。
ここはどこ?わたしは……
定休日。浅草の銀座ブラジルに行った。…… ここはどこ?わたしはだれ?
麗子の喫茶店
「麗子像」でおなじみ岸田劉生の娘麗子が経営する喫茶店が、戦前、昭和9年ごろ東中野にあったそうだ。店の名前は「ラウラ」といった。麗子本人がカウンターに立ち接客していたが、雑誌などで取り上げられ物好きの客が新宿あたりから詰めかけるようになると、そんな客たちの相手に疲れたのか、はたまた経営じたいに飽きたのか、姿を見せなくなったという(林哲夫『喫茶店の時代』編集工房ノアより)。とはいえ、押しかける気持ちもわからないではない。だって、リアル麗子見てみたいし。
ほかにも、東中野には吉行エイスケが経営するバーもあった。店名は「アザミ」と紹介されていたりするが、もともと「アザミ」は於保という医学博士の未亡人が震災前に開いた店で、銀座の資生堂横に移転した後に吉行エイスケが譲り受け、「カカド」(あるいは「カアド」)という店名で経営していたはず(安藤更生『銀座細見』(中公文庫)、小松直人『cafe jokyu no uraomote』(二松堂))。
日々、世界はこんなにも……
これはおそらく、常日頃から誰もが考えていることだと思うのだ。日々こんなにも世界は進歩しているというのに、どうしてティッシュの最初の一枚ばかりはいつまでたっても何枚もくっついて出てきてしまうのさ。
それじゃない
新入社員のみなさん、ごきげんよう。そろそろ職場の雰囲気にも慣れてきた頃ではないでしょうか?
会社というところはふしぎな場所です。初対面の相手にむかって「いつもお世話になっております」などと大嘘をついたところで、「貴様!嘘を吐くなッ!」といきなり胸ぐらを掴まれるようなことは決してありません。安心して下さい。また、会社の中でしか使われない<符牒>のようなものもたくさんあります。
たとえば、もしも会社で「いっぴ」という言葉が耳に飛び込んできたとしても、早合点して「長くつ下」を想像しないで下さい。会社では、なぜか「1日」のことを「ついたち」とは呼ばず「いっぴ」というのです。と言うよりも、いまあなたが思い浮かべたのはそもそも「いっぴ」ではなく、「ピッピ」です。さア、落ち着いて、そう深呼吸、深呼吸。