moiのブログ 日々のカフェ season3

東京・吉祥寺の北欧カフェ「moi」の店主によるブログです。基本情報は【about】をご覧ください。

21.07.2018

 土曜日。わけあってワンオペ。理由というほどの理由はないのだが、「わけあってワンオペ」という語感が変に気に入ってしまったので書いてみた。

 そうそう、語感といえば尾崎放哉の句にこんなのがある。有名な句だ。

 咳をしても一人

 いくら自由律俳句とはいえ、さすがにこれは自由すぎやしないか? 季語もなければ、語数もめちゃくちゃだ。六三なのか、それとも九か。それでも、これが許されてしまうとすればそれはまるで売れっ子のコピーライターがひねり出したかのようなその語感の気持ちよさゆえではないだろうか。
 もちろん、ただ語感のよさだけではダメだ。この放哉が詠んだ句には、レモンのような鮮烈さがある。胸にストンと収まる語感のよさにうつつを抜かしていると、不意に中からジュワッとほろ苦い孤独や侘しさが溢れ出してきて驚かされるのだ。
 これがもし「咳をしても十一人」だったらどうだろう。十一人と書いて「イレブン」と読ませる。「咳をしてもイレブン」だ。ひとまず語感はすばらしいが、なにを言っているのかさっぱりわからない。風邪気味のサッカーチームなのだろう。まあまあ、楽しげではある。

 サッカーといえば、ついにW杯は1試合も観ないうちに終わってしまった。べつに観たくないわけではないが、観なければ観ないで済んでしまう。なんというか、いまの自分にとってサッカーはソバの薬味のような立ち位置なのかもしれないな。
 そしておそらく、ぼくと同じくW杯を観なかった大平さんが夕方来てくれた。確認したわけじゃないが、ぜったい観てないよ大平さんは。で、そのW杯を観なかったであろう大平さんは、余白のうつくしい詩のような絵を描くひとである。
 大平さんと、最近観た長谷川利行の展覧会の話、それに『ストーナー』という小説の話などする。そういえば、大平さんの知り合いがやっているとてもすばらしいリトルマガジンがある。たぶん知っているひとは知っているだろう。『ぽかん』という。いい語感だなあ。