moiのブログ 日々のカフェ season3

東京・吉祥寺の北欧カフェ「moi」の店主によるブログです。基本情報は【about】をご覧ください。

02.07.2018

 1日のうちにセミの声を聞き蚊に刺され、早くも全身で「夏」を満喫中……。

    きょうも朝からド暑いので、ここでひとつ冷んやりするお話でも。以下、脳内で稲川淳二の声に変換した上でぜひお読みください……

 自宅から最寄りの駅まで行く途中、新築中の一戸建てがある。以前はかなり古い木造の平屋だったのだが、こんどは白っぽい外壁の洒落た2階建である。見たところ外観はだいぶ仕上がってきているが、内装はまだまだこれからといった様子。

 さて、昨日のこと、朝8時半ごろいつものようにこの一軒家の横を通りがかった。日曜日ということもあって作業服姿の人たちも見あたらず、建物はひっそり静まりかえっている。

    と、何かが動いているような気配を感じ2階の窓を見上げてみると、ベッドの上で遊んでいるのか、ぴょんぴょんと飛び上がるポニーテールの小学3、4年生くらいの少女のシルエットが窓ガラス越しに目に飛び込んできた。夏の朝の光は強く、逆光になった建物の中の様子は飛び跳ねる人影を除いてほとんどなにも見えない。

 あれ? なんかおかしくない? そう気づいたのは、通り過ぎてしばらくしてからのことだ。最初、日曜日だし家主の家族が下見がてら遊びにきているのだろうくらいにしか思わなかったのだが、それにしてはその少女以外の人影はまったく見当たらなかったし、物音ひとつ聞こえてはこなかった。しかもこの暑さにもかかわらず、窓はぴっちり閉じられたまま。もちろん、エアコンなんてまだ付いているはずもない。

    また、ふつうだったら周囲に乗ってきたとおぼしき乗用車の1台も停まっていそうなものだが、それすらない。それに、だいたい、まだ工事中の2階の部屋にベッドやらトランポリンやらがあることじたい不自然だし、たとえ家主だったとしても、安全上、引渡し前の現場にだれも付き添うこともなく入れるはずもない。とにかく、考え出したらなにもかにもがおかしいのだ。

 けさ、やはり同じ建築中の家の前を通った。なにもなかったかのように忙しく立ちはたらく作業着姿の人をつかまえて、「きのうの朝、ここに小学生くらいの女の子いましたよね?」とは、さすがに聞けなかった。座敷わらし…… かな?

 夕方、桂歌丸師匠の訃報に接する。なんといっても一般的には『笑点』のイメージなのだろうが、日曜夕方にはがっつり仕事をしているぼくにとっては軽い噺から人情噺までしっかり聴かせる本寸法の落語家としてのイメージのほうが強い。また、落語芸術協会の会長として寄席の番組に上方の落語家の枠をつくったり、圓楽一門会の落語家を客演に呼んだり、歌丸師匠の人徳ゆえになしえた事柄も多い。

 最後に聴けたのは3年前の浅草、板付(歩けないため袖から登場するのではなく、一旦幕を下ろし座った状態から登場すること)で姿を見せた歌丸師匠はすっかり痩せ細ってしまい見るからに痛々しい様子だったのだが、いざ噺(お得意の「後生鰻」だった)に入ると、よく通る声でよどみなく噺を進めて客席を驚かせた。晩年の喜多八師匠もそうだったが、噺家の高座にかける執念には尋常ならざるものがある。その凄みに圧倒され、震えた。