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moiのブログ 日々のカフェ season3

東京・吉祥寺の北欧カフェ「moi」の店主によるブログです。基本情報は【about】をご覧ください。

イベント《カレワラの夕べ》レポート

フィンランドの国民的叙事詩「カレワラ」にちなんだイベント、《カレワラの夕べ》を開催しました。まずは、ご来場いただきました皆様どうもありがとうございました。

コクミンテキジョジシというとなんだかむずかしく聞こえますが、フィンランドの人びとのあいだで長く語り継がれてきた荒唐無稽の物語です。そのすごさに気づいた医者のエリアス・リョンロットが、各地を訪ね歩いては採集した数々のおはなしをまとめて一冊の本として出版したのが1835年2月28日のこと。この『カレワラ』を手に取った当時のフィンランドの人びとは、自分たちの郷土に独自の、しかもこんなにも豊かな物語があったのか! と驚き、それがやがて独立への機運へとつながっていったともいいます。そんなこともあって、フィンランドでは『カレワラ』が出版された2月28日は、いまでは国民の祝日「カレワラの日」と制定されているのだそう。

今回のイベント《カレワラの夕べ》は、子どものころから「カレワラ」に親しんできたというライヤ橋本さんの「日本でもなにかカレワラにちなんだイベントを!」という思いを受けて、フィンランドで音楽を学んだ駒ケ嶺ゆかりさん、そして水月恵美子さんのおふたりがアレンジしてくださいました。モイとしては会場提供というかたちでの協力でしたので、イベント内容についてはフタを開けてみないことにはわからないという感じでしたが、そのぶんワクワクしながらお客様目線で楽しむことができました。そこで、以下にすこし当夜のレポートを。

 

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まず最初は、ライヤ橋本さんによる朗読で「カレワラ」の序章を聴きます。「カレワラの魅力は、なんといってもまずその韻律にある」と言うライヤさん、ときに歌うように、流れるようにカレワラを読んでいきます。そのリズムは、森の小鳥のさえずりだったりそよぐ風、川のせせらぎを思い起こさせてくれます。そして、段落ごとに駒ケ嶺さんが日本語訳を朗読。

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つづいて、カレワラの成り立ちや壮大な物語をかいつまんでライヤさんが説明してくださいました。なんでも、たいがいのフィンランドの家庭にはこの『カレワラ』があるのだとか。自身も、息子さんが子どものころプレゼントしてあげたそうです。こうやってフィンランド人の「DNA」は受け継がれてゆくのでしょうか。

ライヤさんによると、日本で「カレワラ」が紹介されたのは、昭和12(1937年)森本覚丹の訳により日本書荘から出版されたのが最初とのこと。『カレワラ』のフィンランドでも出版からちょうど百年くらい後ですね。ほかにも、来日以前の小泉八雲は「カレワラ」を研究していたとか、『指輪物語』のトールキンは『カレワラ』を原語で読むためにフィンランド語を勉強していたといったエピソードも紹介されました。あるいは小泉八雲は、古代から日本の人びとのあいだで語り継がれてきた昔話の数々に「カレワラ」に通じる豊かさを「発見」したのかもしれません。

会場には、ライヤさん秘蔵の「カレワラ」コレクションの数々も展示され、みなさん自由に手にとってご覧になられていました。

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ライヤさんによる楽しいお話の後は、メゾゾプラノの駒ヶ嶺ゆかりさんによる演奏でシベリウスの歌曲を4曲。駒ヶ嶺さんは札幌を拠点に活躍する声楽家で、フィンランドではピアニストの舘野泉さん、夫人で声楽家のマリア・ホロパイネンさんのもとでシベリウスをはじめとした北欧の歌曲とその世界について学ばれました。

演奏されたのは、フィンランド語の詩による「川面の木屑」op.17-7、「泳げ、泳げ、青い鴨」、そしてスウェーデン語による「3月の雪」op.36-5、そして「3月の雪の上のダイヤモンド」op.36-6でした。「川面の木屑」は、水際に流れ着いた木屑をみて、どこか遠くで花嫁を迎えにゆく舟が作られたにちがいないと思いをはせるロマンティックな内容。自然とともに生きるフィンランドの人びとの心情が、メゾソプラノのふくよかな響きで細やかに歌われます。

演奏は、楽器のない当店の環境に合わせて特別に水月さんが制作してくださった音源が用いられました。「カラオケ」では息を合わせるのが大変ではと思いましたが、そこはさすがお互いの呼吸を知り尽くしたおふたりのこと見事なコンビネーションでした。

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挨拶をするピアニストの水月さん。水月さんはシベリウス音楽院のご出身。舘野泉さんと共演したCDも発売されています。

 

お話と演奏の後は歓談タイム。モイのお飲み物とフィンランド風のシナモンロールで余韻を楽しんでいただきました。

「カレワラ」が大好きと語るライヤ橋本さん、少女のように目をキラキラ輝かせながらお話する姿がなんとも印象的でした。遠い北の国のコクミンテキジョジシが、ずいぶんと身近に感じられた一夜。

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