moiのブログ 日々のカフェ season3

東京・吉祥寺の北欧カフェ「moi」の店主によるブログです。基本情報は【about】をご覧ください。

原田マハ『ジヴェルニーの食卓』

歴史に名を残す画家たちの〝最後の日々〟を、身近で接した女性たちの眼をとおして描き読後に静かな余韻を残す短編集。

 

登場するのはマティス、ドガ、セザンヌ、そしてモネの4人。たとえば、マティスをとりあげた『うつくしい墓』は、老いてなお枯れることを知らない天才のインスピレーションとその創造を支える周囲のひとびとの献身的な愛を若いメイドの眼をとおして語らせながら、それが同時にマティス晩年の傑作《ロザリオ礼拝堂》誕生の隠れた物語にもなっている。

それぞれの物語には、共通して女性たちが早朝「窓を開ける」シーンが登場する。 それは、刻々と迫る敬愛する老画家との「別れ」へのカウントダウンであり、また、〝最後の日々〟を共にできることへの「歓び」をあらわしているのではないか。

 

実在の画家たちが登場するとはいえすべてはあくまでもフィクションであり、そういうことがあったのかもしれないし、またなかったのかもしれない。けれども、そうした事実関係の詮索よりも、史実をもとに、その隙間をていねいにパテで埋めてゆくような作者の驚くべき想像力と知的な遊び心をこそ楽しむべき本なのだと思う。これもまた、「絵」を愛するひとつの方法にちがいない。

 

ジヴェルニーの食卓 (集英社文庫)

ジヴェルニーの食卓 (集英社文庫)