韓国のお茶
なおみさんから韓国のおみやげを頂いた。
お茶だというが、なによりすてきなデザインのパッケージが目を引く。おみやげの愉しみとは、それを選んだひとのセンスに触れる愉しみでもある。このお茶にしても、いかにも洗練されたなおみさんらしいセンスに溢れている。
パッケージに描かれた宵闇に浮かぶ島のイラストから目を離し、文字を読もうとするのだがハングル文字が大半を占めていていっこうに判読できない。かろうじて英語の表記があったので読んでみると、<発酵させたJEJU TEAに甘い梨のフレーバーを加えた>とある。JEJU TEAってなんだろう? としばし首をかしげる。あ! チェジュ! 済州島のことかと納得。とすると、パッケージに描かれていた島もきっと済州島にちがいない。甘い香りのウーロン茶といった味わいは、街角でよく知っているひとが見慣れない装いで佇んでいるのを見たときのような不思議な印象をもたらす。
世界にはいろいろな言葉があり、景色があり、味がある。おみやげに頂いた一杯のお茶が、多様な世界を知ることの豊かさを教えてくれる。
挟み討ちとは卑怯な
晴れているのに誰も来ない……
おかしいなと思ったら挟み討ちされていた。おい、こら卑怯だぞ!
A・C・ジョビンの秘密の<中庭>へ
伊藤ゴローさんの新譜『アーキテクト・ジョビン』を来月5日の発売に先がけて聴かせてもらいました。
「バラに降る雨」「ルイーザ」「インセンサテス」といったおなじみの曲をふくむ全編インストゥルメンタルによるアントニオ・カルロス・ジョビンのソングブックなのですが、いままでのジョビン集と明らかにちがうのはドビュッシーやショパンなどクラシック音楽を偏愛し影響を受けた彼の横顔に光をあてていることにあります。ギターの村治佳織やチェロの遠藤真理といったクラシックの演奏家たちをフィーチャーした特別編成のアンサンブルによる演奏は、聴きなれたジョビンの曲の中にまだこんな<響き>が隠されていたのか! という新鮮な驚きと喜び、発見をもたらしてくれます。
と、同時にその作業を通して<作曲家・伊藤ゴロー>の顔が見られるのもファンとしてはうれしいところ。作曲家としてのゴローさんには、アマゾンのそれとはちがうしっとりとした<湿り気>を感じます。思うにそれは、ゴローさんが生まれ育った<雪国>のそれなのではないかな。ブラジルの巨匠の作品を取り上げながらも、ゴローさんの手にかかると雪に閉ざされた無音の世界や雪解け水をあつめた春の渓流、むらさき色に霞んだ山々や色やかたちを刻々と変えてゆく夏の雲といった日本の景色が目に浮かんでくるのがなんとも不思議です。
アントニオ・カルロス・ブラジレイロ・ヂ・アウメイダ・ジョビン。敬意と親しみを込めてトン・ジョビン。彼を一軒の<屋敷>にたとえるなら、そこには外からは見ることのできない実は秘密の<中庭>があって、その<中庭>にはジョビンが偏愛し大事に育ててきた可憐な花々が咲き乱れているのです。このアルバムを聴くとき、だからぼくらはゴローさんの手引きでそんな<中庭>に案内されているような気分になります。
いい眺めでした……
思わずそんな感想をつぶやきたくなるこの『アーキテクト・ジョビン』。ボサノヴァ好きだけでなく、クラシック好き、いや五線紙の野に咲く花々を愛するすべての人たちにぜひ耳傾けてもらいたい作品です。
空からお届け
昭和5(1930)年8月、世界一周中のドイツの巨大飛行船「ツェッペリン伯号」が日本に飛来した。
高島屋の宣伝部長、後に総支配人として辣腕をふるった川勝堅一は、大阪高島屋の屋上にこの「ツッペリン伯号」を繋留した合成写真をつくり、親交の深かった与謝野晶子のもとを訪ねる。「デパートも、地上でお買物を配達するばかりでなく、今に、空から運ぶ時代も来ると考えますから、この写真に、何かお歌を一つお願いします」。
すると晶子は、「それは面白い思いつきでしたね」と次のような歌をすぐに詠んでみせたという。
屋の上に 飛行船寄り 羽ごろもも 星もたやすく 運びこんとぞ
いまドローンを利用した配送の実験が行われている最中だが、80年以上前のデパートマンはすでにそんな未来の到来を予測していたわけである。